こんにちは。再履バス同好会(@sairi_doukoukai)です。みなさんは「再履バス」(学内連絡バス)を使ったことがありますか?ズッ豊な人は使わないかもしれませんが、箕面・吹田がメインキャンパスという人は毎日のようにこの満員バスに揺られています。
そんな再履バスには昨年10月から、最新型のバスが導入されています。白い車体が眩しい新型バス、これこそが電気で走る電気バスです。
メーカー:BYD
車種:K8(近郊型Ⅰ)
全長:10.5m
総重量:15t
定員:81人(運転士含む)
航行距離:220km
車種:K8(近郊型Ⅰ)
全長:10.5m
総重量:15t
定員:81人(運転士含む)
航行距離:220km
電気バスは中国やヨーロッパでは普及しているものの、日本ではまだ数が多くありません。再履バスを運行する阪急バスでも初めての導入となりました。
今回はこの電気バスで実証実験が行われるということで、詳しい内容を取材してきました。……が、本題に入る前にまずは車両の紹介をします!
まずは外観から。
続いて、車内の様子をご紹介。
せっかくなので、普段はなかなか見られない運転席の様子もお届け。
最後に、電気バスの要となるバッテリー周り。
USB充電器やグラスコックピットの運転台、紹介はしませんでしたが車外を取り囲む無数のカメラ(映像を組み合わせて死角を無くすそうです)など、高機能なバスに仕上がっていました。見ているだけのバス好きとしてはワクワクが止まらない車両です。(機能が多い分、運転士さんは馴れるまでが大変だと思いますが……。)
さて、車両の紹介がすんだところで、いよいよ本題です。
産学連携の実証実験を取材しました
再履バスに突如新型車両が導入されたのは、産学で連携しての実証実験を行うためです。環境問題への関心が高まり、くしくも温暖化対策目標が大きな政治的争点となっていた昨年9月、バスの電動化と必要な技術開発のための実験が始まると聞き、大阪大学・関西電力株式会社・阪急バス株式会社のみなさんへの取材を始めました。避けて通ることのできない「車の電動化」について、前編・後編の2回に分けて連載していきます。
第一回目となる今回は、この電気バスで行われる実証実験の内容について紹介します。
<取材協力>
大阪大学大学院工学研究科 太田豊特任教授(常勤)
関西電力株式会社 ソリューション本部 eモビリティ事業グループ 植村浩気課長
阪急バス株式会社 経営企画部 梶川洋平課長
大阪大学大学院工学研究科 太田豊特任教授(常勤)
関西電力株式会社 ソリューション本部 eモビリティ事業グループ 植村浩気課長
阪急バス株式会社 経営企画部 梶川洋平課長
実証実験の経緯、特に数ある路線の中から「学内連絡バス」が選ばれた経緯について、植村さんと梶川さんはこう語ります。
植村さん:まず背景としましては、2020年4月に大阪大学との産学連携として「モビリティシステム共同研究講座」が結成されました。2020年6月には「eモビリティ事業グループ」(当時の名称は「eモビリティ事業推進グループ」)が誕生し、地域の交通事業者さんの課題解決や運輸部門の電動化の検討を進めてきました。その中で阪急バスさんともお話をさせていただきまして、阪急バスさんが大阪大学さんの学舎間連絡バスを運行されていること、弊社と大阪大学さんがeモビリティの研究を行っているということで、学内連絡バスが研究に活用できるのではないかということになり、三者で実証実験を行うことになりました。
梶川さん:弊社としましては関西電力さまと大阪大学さまからこの度ご縁をいただきまして、実証実験に参加させていただくことになりました。今回の実証実験の中で昼間時間帯にバスから放電して電力を有効活用するというスキームがあるのですが、当然ながらそのためには昼間にバスが車庫で休んでいる必要がありまして、その実証を行う上で学校の休校日等は営業所で停まっている学内連絡バスは好都合だったことから、学内連絡バスで実証実験を行うことになりました。
放電もできる?電気バスの機能
みなさんは電気バスの機能といえば、何を思い浮かべますか?ほとんどの方が最初に「電気を使って走る」ことをイメージされたのではないでしょうか。
「電気バスは夜間電力を利用して充電し、学内連絡バス他で運行するとともに、運行を行わない昼間に電気バスの蓄電池から営業所に放電します。さらに、BCP(事業継続計画)の一環として、災害などによる停電時にも、電気バスの蓄電池から営業所の一部に電力を供給します。」(引用:プレスリリース)
近年の電気自動車は「貯めた電気で走る」だけではありません。電気自動車に蓄えられるエネルギーは、実は「相当なもの」(太田先生)だといいます。電気自動車のバッテリーは走行以外の用途にも使うことができ、停電時の電源として使用したり、電力のピークシフトをしたりすることが可能です。
電気バスの充電は夜間に行われます。深夜は営業所の建物の電力需要が少なく、電気料金も下がるためです。この電力を走行に使うだけでなく、バスが運行していない日に営業所の建物へ供給することができます。こうすることで昼間に購入する電力量を減らし、電力コストを削減することが可能になるというわけです。
深夜電力の有効活用がもたらす効果はコスト削減にとどまりません。電力会社にとってもメリットがあるといいます。
植村さん:みなさんの生活を想像すれば分かりやすいのですが、電力需要はみなさんが活動している時間帯が最も多く、朝から増えていって夜には減少していきます。電力会社は電力消費のピークに合わせて電気設備を用意しておく必要があるのですが、電気を使う時間と使わない時間の差を減らし電気をより効率的に使いたいと考えると、(電力需要の少ない)深夜に電気バスのバッテリーに電力を貯めて、昼間の電力の一部をバッテリーから賄うことで、全体の負荷を平準化することにつながる、と考えています。
日中に増加する分の電力需要を支えているのは主に火力発電所です。火力発電所は燃料の投入量などを調節することで出力を制御しやすく、需要が変動する分の「調節役」に向いているからです。電力需要をピークシフトできれば、火力発電所の稼働を削減し,二酸化炭素の排出量を削減する効果が見込め,さらには発電設備自体を縮小することが可能になるかもしれません。
将来的には数十台の路線バスが通学・通勤の「ラッシュ待ち」の昼間に営業所に電力を供給することになります。とはいえ、せっかく貯めた電気を他のことに使ってしまっては走行する分が足りなくならないのでしょうか?
太田先生によると、一般的な電気自動車では満充電のとき、家庭で使用する電力の約4日分に相当する量の電力を蓄えることができます。そのため昼間の電力をバッテリーから賄ってもバッテリーの容量からすれば消費量は少なく、走行に使える電力は十分に残るのだそうです※。電気バスではバッテリーもひとまわり大きく、大量の電力を蓄えることができるといいます。
※電気自動車の航行距離は200~400km程度。一日にそれほどの距離を走行する人は珍しいはずで、多くの場合バッテリーは余り気味になるといいます。
太田先生:だって、(電気自動車の)リーフでも1.6トンもあるんですもん。1.6トンのものを、時速100キロで投げるわけですよね。それに対して、家で電灯をつけながらパソコンをするっていうのは桁が全然違います。
太田先生:バスからの放電は海外ではデフォルトになりつつある機能で、例えばアメリカではスクールバスを電動化して地域へのエネルギー供給源として活用したりしていますし、イギリスでも2階建てのダブルデッカーバスから電力供給するということを現在やっています。また災害等の非常時にはバスを避難所や停電してはいけない重要拠点に持って行ったりして電源を供給するという発想も海外ではなされていますね。
電気バスから放電するもう一つの重要な役割は、非常時の電力供給源となることです。今回の電気バスは停電時にバッテリーの電力を非常電源として外部に供給することができます。
災害に弱いと言われがちな電気自動車ですが、太田先生は電気自動車ならではの強みもあるといいます。
太田先生:本当に激甚な災害の場合はガソリンスタンドの方が復旧が厳しいこともあります。なぜかというと、ガソリンスタンドにガソリンを供給するまでのロジスティクスが破壊されると、下手をすれば、電気の施設よりも復旧に時間が掛かってしまうということがあるからです。東日本大震災でもそのような事例がありました。また激甚災害のあとに多いのが、道路がすごく混雑してガソリンスタンドまで行けないということですね。そうすると電気自動車は、災害発生時に充電されていれば、その電気を使って家を避難所とすることもできますし、ある程度走行することもできます。
太田先生:乗用車に関しては10年ぐらい前かな、あの東日本大震災のころから自動車から電気を供給する機能ってのを僕はずっと研究してきていて。この10年ぐらいで技術がすごく進展していて、数年後にはもう普通の技術になってると思います。
電気バスが非常電源としての性能を存分に発揮するような事態が起きないことが一番ではありますが、今や自然災害は年に数回我々の日常を脅かすほどになっています。電気自動車・電気バスからの放電は重要な技術なのです。
ちょっと脱線:Range Anxietyについて
電気自動車のバッテリー、そんなに余裕があるなら、なぜ全国に充電スタンドを用意する必要があるのでしょうか?
バスの話ではありませんが、「電気自動車の普及には充電スタンドを全国に設置することが急務だ」という話をよく耳にします。電気自動車の航行距離が200km以上あり、日常的な使用に十分なのであれば、住宅以外に充電器の必要はないのではないでしょうか?太田先生曰く、理由の一つに「人間の心理」があるといいます。
太田先生:”Range Anxiety”といって、人間の心情としてバッテリーが減っていると不安を覚えるんですよね。
スマホにたとえて考えると、学校や職場で充電器が刺せるところがあれば充電したくなる、という人はいるかもしれません。50%くらい残っていても、残量が減ってくると満充電にしておきたいという心理が働くのです。充電スタンドへの需要はこうした心理から生じます。電気自動車のユーザーが「不安」を抱えていると口コミで良い評判が広がりにくくなり、普及しません。
もちろん「想定外の電池切れ」が発生する可能性はゼロではないので、充電スタンドが街中に普及してないと車が動かせなくなってしまう、という理由もあります。
さて、夜間に電力を使用すると当然ながら昼間の電池残量は100%より少なくなります。ということは、昼間に車を使おうとするとユーザーはanxietyを感じてしまわないのでしょうか?
太田先生:それはありますね。ただ、人間の「不安さ」は個人差が大きくて定量化が難しい。75%で充電したくなる人もいれば、全く気にならない人もいるわけです。ですからエネルギーマネージメントの下限をユーザーが設定できるようにしている例もあります。75%以下にならないように放電してくれ、とかユーザーが指示する感じですね。海外だとわりと例があります。
後編へ続く🚌