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アビリンピック全国大会優勝者に聞く!ゆる〜く、ラフにマイノリティを考える。<後編>

2022.05.24
 😳mappa!
「全国アビリンピック(全国障害者技能競技大会)」に、初挑戦で優勝した、人間科学部3年生の大川公佳さん。前半に続いて後半では、自身で立ち上げた手話サークル「Flono(フローノ)」や、マイノリティについて学ぶ団体「minoria(ミノリア)」での活動の様子や、大川さんの日常・考え方についてお送りします。
《目次》

前編
  • 初挑戦のアビリンピック。優勝の瞬間に感じたのは「ラッキー♪」!?
  • 合理的配慮を受けられなかった高校時代。1年の宅浪を経て、阪大人間科学部へ。

▼ 後編

「Flono」や「minoria」を通して、自然な流れで発信の輪を拡大中。

−「Flono」や「minoria」といった団体の立ち上げも経験されていると聞きました。 どういった経緯で、サークルを立ち上げようと思われたんでしょうか?
「Flono」は、かなり軽いノリで立ち上げたサークルなんです。人科に入って仲良くなった友人と「そういえば阪大って手話サークルがないよね」という話をしていて。「ないなら、つくっちゃおう!」という感じで、1年生の10月に立ち上げました。
今は新型コロナウイルスの影響もあってあまり集まれていないのですが、立ち上げ当初はみんなで集まって「挨拶」とか「季節のイベント」とか、毎回テーマを決めて手話を学んでいました。メンバーは25人くらいいて、教えるのは大変ですけど、その分楽しくもありますね。
−軽いノリで、というところがいいですね。 お友達は、元々手話ができる方々だったんですか?
いえいえ、全然そんなことはなくて。「Flono」の立ち上げを一緒に行った友人2人は、仲良くなった1年生の6月の時点で、手話を全く知らない状態でした。でも1か月後には指文字と簡単な会話ができるようになっていて。「手話を覚えてくれてうれしい!」と伝えたら「きみちゃんと話すためなんやから当たり前やん」って言ってくれました。こんなことを言ってくれる友人と知り合えて、幸せだなと感じたことを、今でも覚えています。
「Flono」の活動の様子。コロナ禍でもオンラインで活動していた。
兵庫陶芸美術館に行った際の写真。
−素敵なお友達ですね……。ちなみに「minoria」では、どんな活動をしているんですか?
1・2年生の頃は授業や大学以外の活動で忙しかったんですけど、3年生になると少し余裕が出てきたので、大学入学当初の目標でもあった「さまざまな立場のマイノリティについて理解を深めたい」と改めて思うようになりました。同じような考えを持つ仲間で集まって立ち上げたのが「minoria」です。メンバーは現時点で14人になっていて、マイノリティに関する勉強会や、体験型のイベントを企画・実施しています。
−例えば、どんなイベントを行われたんでしょうか?
2021年には、耳の聞こえない私たちが普段から味わっている疎外感を疑似的に感じてもらおうと、ろう者と聴者が一緒に参加する「バリアフル座談会」というイベントを開催しました。
イベントは、ろう者と聴者でグループをつくるところからスタート。聴覚障害は見た目では分からない障害なので、参加者は初めグループ内の誰が聞こえて、誰が聞こえないのか分かりません。すると急に、ろう者の方々が手話で楽しそうに会話をし始める。聴者の方は何を話しているのか分からないので筆談を頼むのですが、最初は書いてくれていても、ろう者の間で話が盛り上がり始めると段々疎かになってきて、会話に入ることができなくなる……。という体験をしてもらいました。
−社会実験のような、よく考えられたイベントですね。参加者の反応はどうでしたか?
イベント後のアンケートでは「とても孤独でしんどかった」という意見や「聞こえない人の気持ちを考える、いい機会になった」という声が上がっており、私たちの狙いが届いたなと感じました。
2022年度も、マイノリティとマジョリティが一緒に参加できるイベントを企画して、お互いへの理解を深めていくのが目標。かといって堅苦しくてしんどい会にはしたくないので、メンバーのことも大切にしつつ、ラフに続けていきたいですね。
−普段の勉強と、「Flono」や「minoria」の活動の両立……、正直忙しくないですか?
自然と活動の輪が広がっているだけで、私だけがめちゃくちゃに頑張っている、というわけではないんです。周囲の人も手伝ってくれるし、無理のないペースで活動できているなと感じています。自分の権利を堂々と主張できる大学生の間に、「Flono」や「minoria」を通じて、自由にラフに、マイノリティについて考える機会を広げていきたいですね。

大学に入ってから改めて気づいた、「手話」という言語の奥深さ。

−学校の外での大川さんについても、ぜひ知りたくなってきました。 休みの日などはどんなふうに過ごされていますか?
趣味はYouTube鑑賞。猫動画とゲーム実況が好きで、見ない日はないですね。YouTuberの動画ってテロップや字幕がついていることが多いので、コンテンツとして楽しみやすいんです。癒しは飼い猫の「ウルちゃん」と遊ぶこと。元保護猫で、5年前にうちにきてくれました。めちゃくちゃかわいいです。心の支えになっています(笑)
飼い猫のウルちゃん。くりっとした目と大きな耳がとってもかわいい!
−アルバイトなどはされているんですか?
「こめっこ」というNPO法人でアルバイトをしていて、耳の聞こえない・聞こえにくい子どもたちが、遊びを通して手話(ことば)を獲得するお手伝いをしています。
−「Flono」でも手話を教えるという経験をされていると思うんですけど、 子どもが相手だと教え方や教える内容が変わってきたりしますか?
遊びながら手話に親しむ、ということがこめっこの目的なので、「勉強」という感じで教えることはないですね。自然に遊びを楽しみつつ、手話でコミュニケーションを取っています。こめっこに参加して思うのは、補聴器ではなくて「人工内耳」を付けている子がずいぶん多いなということ。
技術が発達したことで、人工内耳で大きな補聴効果を得られるケースが増えているんです。音を音として聞き取れるようになるので、手話を必要としない子も多くて……。いいことではあるんですが、少し不安も感じています。
−不安、というと?
人工内耳を付けても、完璧に聞こえる訳ではないため、言語獲得が中途半端になってしまいやすいんです。手話を使えないし、日本語を自由自在に使えるわけでもない。となると、そういう子たちが大人になったとき、自分の感情や思いをどうやって表現するのかなと思うときがあります。また、人間って考えるときには、必ず言語、特に母語を媒介させて考えますよね。そういった意味で、完璧に操れる母語を持たないと、思考力も育ちにくいんじゃないのかな、とか。
それと、自分の居場所というか、属するコミュニティを確実に獲得できるのかな、ということも気になります。少なくとも手話を身につけて、手話を通じてきちんとコミュニケーションがとれる、手話で自分の思いや感情をしっかり表現できる、という状況をつくっておくことは、すぐには役立たずとも、きっと将来のセーフティーネットになると思っているんです。
−手話もひとつの言語であって、手話を母語とすることが、 子どもたちのアイデンティティにつながっていくんですね。
そうなんじゃないかと、私は思っています。もちろん日本語を操ったり、発音の練習をしっかりすることもとても大事なんですけど。でも私自身、「手話がひとつの言語なんだ」「手話って大事だな」って感じ始めたのは、大学に入ってからなんです。実は手話って「日本手話」と「日本語対応手話」という2種類があって……。
−え!2種類あるんですか?
そうなんですよ!「日本手話」は日本語とは異なる独自の文法を持った言語としての手話、という感じで、「日本語対応手話」は日本語の単語一つひとつに対応する動きで表す手話、というイメージですね。といっても、私も大学に入るまで「日本手話」についてはそこまで知りませんでした。
−大川さんでも知らない手話があるんですね。 どういうきっかけで「日本手話」を知ったんですか?
当時ろう学生の団体に所属していて、他大学のろう者と交流する機会があったんです。そのとき、全然手話が通じなくて……。向こうの手話をうまく読み取れなくて、「なんで?」と思って調べていくうちに、「日本手話」というものがあることを知りました。そこから興味を持って勉強するようになり、今では「日本手話」を使ってコミュニケーションを取ることも増えています。
−「日本手話」と「日本語対応手話」の違いって?
「日本手話」は顔の表情とか、動きの抑揚も含めて、手以外の要素もたくさん使って表現します。だからより豊かな感情表現ができるんですよね。大学に入ってすぐの頃は結構「ポーカーフェイス」って言われていたんですけど(笑)。今は「表情がやわらかくなったね」って言われます。
−奥が深いな〜。本当にひとつの「言語」ですね。
そうなんですよ。だから、第二言語で外国語を学ぶように、手話を学ぶ人が増えるといいなと思っていて。アビリンピック優勝に際して阪大総長を表敬訪問したときも、「ぜひ手話の授業を開講してください」とお願いしました。

就活では、新たな壁にぶつかることも……。学びを深めながら、進路を模索中。

−大川さんは3年生ということもあって、就職活動も始められているんですか?
昨年、インターンに参加しようと思ったんですけど、これがなかなか難しくて。「合理的配慮を行いますよ」と言ってはくださるんですが、音声認識のアプリを渡されるだけだったりして、正直参加が難しかったですね。障害のある学生向けのインターンもあるにはあるんですが、この場合は職種がかなり限られていて、自分が興味を持てそうな企業は見つかりませんでした。
−まだまだ、企業側の理解も受け入れ態勢も整っていない、ということなんですね。
企業の第一目的は利益をあげることなので、合理的配慮に予算を割くのが難しいんだろうな、と理解はしつつも、悔しい思いもありましたね。ただ、高校生までは聞こえない「から」、と色々なことを諦めていた思考回路が、阪大にきてからは聞こえなく「ても」できるんだ、という考え方に変わったのも事実。今は大学院への進学を視野に入れて、進路を検討しています。就活ではつまづくこともありましたが、配慮をきちんと受けられる学生期間を前向きに捉えて、自分がどう働きたいのか、どう社会にでていきたいのか、をじっくり考えたいと思います。
−マジョリティとマイノリティがもっと交流を持ち、 壁や区別みたいなものをなくしていくためには、どんな姿勢が必要なのでしょうか?
マジョリティの方は「こんなことを言ったら傷つけてしまうかも」と思って、マイノリティの方に話しかけたり、交流を持つこと自体を躊躇することがあるかもしれません。でも、そんなに考えすぎなくても大丈夫だよ、と思います。人によりますが、少なくとも私の場合は、聴覚障害について尋ねられることを嫌だとは思わないですね。
それこそ、仲の良い友人2人が知り合った当初「聞こえないってどういうこと?」「注意した方がいいことある?」と聞いてくれたことが、とてもうれしかったという経験もあります。ちょっと尋ねにくい質問だと思うんですけど、その壁を越えて質問してくれたということは、私を知ろうとしてくれてるんだなぁ、って。障害やハンデだけでその人を捉えてしまうのではなく、それも含めてのその人自身を知りたい、という気持ちが大切だと思います。
−最後に、記事を読んでいる方にメッセージをお願いします!
合理的配慮が受けられて、当たり前に勉強できる環境を体験して、私は阪大にきて本当によかったなと感じています。高校時代はしんどい思いもしたけれど、それは小さな世界での出来事だったんだなぁと。大学という場所は、自由に、興味の赴くままに、世界を広げていくことができる場所。今のところ、私は阪大に入学したことを一切後悔していません。障害があるからといって進学を諦めず、ぜひ後悔のない大学選びをしてほしいな、と思いますし、阪大を検討されている方がいたら「ぜひどうぞ!」と自信を持っておすすめしたいですね。
(編注後記)
インタビュー当日は、3名の手話通訳士さんが同席してくださいました。
手話通訳士さんは右側。長時間のインタビューのため、3名で交代しながら手話通訳をしていただいた。
 

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