「まさかアメフト選手になるなんて思いもしませんでしたよ」。そう話すのは、社会人アメフトチーム「オービックシーガルズ」の選手として活躍する山﨑さん。大学時代は大阪大学文学部人文学科で日本学を専攻し、阪大のアメフト部「TRIDENTS」に入部したのをきっかけにアメフト選手の道を歩み始めました。現在はアメフトの本場・アメリカで日本人初のNFL(ナショナルフットボールリーグ)プレーヤーを目指し、日本の社会人アメリカンフットボールのトップリーグである「Xリーグ」の強豪チーム「オービックシーガルズ」でキックを専門とする「キッカー」というポジションで活躍中。前編の記事に続き後編では、選手として世界一を目指す道のりや、カナダの最高峰プロリーグであるCFL(カナディアンフットボールリーグ)での活躍、山﨑さんが大切にしていること、これからの展望などを語っていただきました。
プロフィール
山﨑丈路さん(やまさきたける)日本の社会人アメリカンフットボールのトップリーグである「Xリーグ」の強豪チーム「オービックシーガルズ」(千葉県習志野市)でキッカー(背番号12)を務める。画像処理・AI・センサー等、センシング技術を用いて最適なソリューション提供を行うアキュイティー株式会社にも勤務。2013年4月に大阪大学文学部に進学、阪大のアメフト部「TRIDENTS」に入部し、アメフト人生を歩み始める。2017年に「エレコム神戸ファイニーズ」の練習生となり、アメフトに専念するべく大学を中退。2019年には社会人選手として試合に出場し、パンターの最優秀選手に選ばれる。2020年に「オービックシーガルズ」に移籍。2021年4月に、カナダの最高峰プロリーグであるCFL(カナディアンフットボールリーグ)の「BCライオンズ」に初の日本人選手として入団し、同年8月退団。
山﨑丈路 さん
Instagram: @takeruyamasaki
Twitter: @takeruyamasaki
YouTube: https://www.youtube.com/channel/UCcAAgk9rdWz_uuIFENJKIag
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大阪大学アメフト部TRIDENTS
公式サイト: http://www.tridents.jp/
Twitter: @Go_Go_TRIDENTS
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オービックシーガルズ(OBIC SEAGULLS)
公式サイト https://seagulls.jp/
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▼ 前編
- 仕事もプライベートも、スポーツ尽くし。
- そもそも、スポーツで生きていこうなんて、考えもしなかった。
- 「自分はこんなもんだ」と、可能性を閉ざさない。同級生の訃報をきっかけに、考え方が変わった。
- 渡米して本場の選手と競ったことも、迷いながら就活したことも、大学中退も。キッカーとしての可能性を広げるきっかけに。
▼ 後編
世界最高峰のNFLを目指し、日本での実績とアメリカでの挑戦を積み重ねる。
― アメフト選手として活動するという決心がついてからは、どのような道のりを歩まれていったんですか?
相手に伝わりやすいので「世界一のキッカーになる」と言ってるんですけど、僕が一番やりたいのは選手になることではなく、キックをきわめることなんです。キックという動作で誰にも負けないようになるために、より高く、より遠くへ、そして正確に蹴るキックの動作を探究する。それは、選手として高みを目指していくこととイコールになるのではないか。つまり、世界最高峰であるNFLでトップキッカーになることが、自分のゴールになりました。
NFL選手になるには、キッカーとしての能力があることに加え、試合での実績も重要です。
日本の社会人アメリカンフットボールのトップチームである「エレコム神戸ファイニーズ」に所属し、選手として試合でプレイしながらも、アメリカに足を運びました。現地でキックの指導を受けながら、各チームのトライアウト(入団テスト)に参加するなど、日本で実績を積み重ねながらアメリカで挑戦する機会を持つようにしました。
日本の社会人アメリカンフットボールのトップチームである「エレコム神戸ファイニーズ」に所属し、選手として試合でプレイしながらも、アメリカに足を運びました。現地でキックの指導を受けながら、各チームのトライアウト(入団テスト)に参加するなど、日本で実績を積み重ねながらアメリカで挑戦する機会を持つようにしました。
― 本場アメリカだと、能力だけでは勝てない世界なんでしょうか?
キッカーはボールを高く、遠くへ、正確に蹴ることが求められるポジションなので、キックをきわめていくと選手の能力の差って、そんなに大きな違いがないんです。そこで重要視されるのは経験値。試合でどんな成績を残しているのか、どれだけ規模の大きい場所でプレイしてきたのか。そういった視点では、僕はまだ日本の中でも無名な選手でしたし、アメリカのトライアウトで実力をアピールするだけではなく、日本のリーグで実績を残すことも大事な要素だと思いました。
― ちなみに、プロではないということは、選手として報酬をもらうようなことは発生していないということですか?
そうですね。だから試合に出ながらも、お金を稼ぐというのは別の手段をとるしか方法がありません。当時は大学のアメフト部からコーチの依頼を受けて指導したり、一般的なアルバイトをしたりして収入を得ていました。でも、最優先順位はアメフトなので、アメフトに支障が出ない範囲で。本当にどうしようもない時は、親に頭を下げて経済的に支援してもらっていました。
― 選手としてチャレンジを重ねることと、仕事を両立されるのは大変だろうと思います。エレコム神戸ファイニーズには2019年まで在籍されて、2020年からは現在所属されているオービックシーガルズに移籍されたんですよね。
はい。キッカーとして高みを目指すために、今自分に足りないものを補完できる環境がオービックシーガルズにはあると思いました。でもオービックシーガルズは日本のXリーグの中でも強豪チームでして、誰でも移籍できるというわけではありません。チームにとってメリットがある選手じゃないと、欲しいと思ってもらえない。実は、エレコム神戸ファイニーズに在籍していた最後のシーズンで、ポジションの最優秀選手に選ばれたという実績があり、そうした過去の成績も自分の強みにしながら移籍の交渉をしました。
― 交渉は自分でされたんですか。
もちろん。オービックのコーチ陣に連絡させていただき、自分がどんな気持ちでアメフトに臨んでいるのか、オービックでのトレーニングやプレイを通して成長していきたい旨を伝えたところ、2020年から所属させていただけることになりました。
コロナ禍で海外に行けない時期も、 自らチームにコンタクトを取り、実績をアピール。 カナダCFLの「BCライオンズ」へ入団を果たす。
― オービックシーガルズで経験を積まれながらも、2021年4月からはCFL(カナディアンフットボールリーグ)の「BCライオンズ」に入団して試合に出られたそうですね。これはどういった経緯なのでしょうか?
2020年から、日本のXリーグとカナダのCFLが提携を結んだんです。これは、CFLのチームに入団できる国際選手枠のトライアウト(入団テスト)が行われるというものでして、CFLで活躍するとNFLにも挑戦しやすくなるというメリットがあります。僕もトライアウトに参加した結果、候補選手として合格することができました。なんですが、このタイミングでコロナ禍に突入し、この年のCFLそのものが開催中止になってしまって…。
― せっかく海外への切符を手にできたタイミングで…!
その間にできることはないだろうかと考えて、自らCFLのチームにコンタクトを取り、今までのプレイのハイライト映像や成績を共有しました。全9チームのうち5チームから興味を持っていただけたんですが、最終的にドラフトで指名をいただいたのはレスポンスが一切なかった「BCライオンズ」だったので、個人的にはびっくりしましたね。指名を受け入団したのが2021年4月、実際にカナダに渡ったのは7月でしたが、それまでのおよそ1年間はオービックの選手として日本のXリーグに出場し、リーグ優勝、その年の最優秀キッカー賞にも選ばれて、自分の経歴に箔をつけることができました。
思うように成績を残せず、4ヶ月で退団。 海外での試合経験を強みに、ふたたび一歩。
― 念願叶って、海外のチームでプレイされてみていかがでしたか?
そもそも試合に出場するには、チームで開催されるキャンプでいい成績を残さないと正規選手に選んでもらえないんです。僕は正規選手枠に入ることができたんですが、キッカーは控え選手がいません。つまり、試合での成績が悪いと即退団させられてしまう。僕も試合に出ることはできたんですが、試合の結果がイマイチだったので、入団してから4ヶ月くらいでリリースされてしまいました。
― プロの世界って厳しいんですね。
体に不調を感じていた部分もあり、結果的に良いパフォーマンスを発揮することができませんでした。悔しいけどそれも実力ですし、現地の選手と対等に扱ってもらえたことそのものをポジティブに捉えています。
― 今後はどんなふうに活動していこうとお考えですか?
キックをきわめ続けること、NFLでトップキッカーになるという目標は変わらず持ち続けています。逆にそれを諦めてしまうということは、選手生命に幕を下ろすということなので。今度の展望としては、前回と同じようにCFLに挑戦してカナダで実績を積み、NFLにチャレンジできる土台をつくっていきたいと考えています。でも前回と違うのは、すでにCFLの出場経験があるということです。結果はイマイチだったかもしれないけど、CFLのチームに一度認められているのは、自分のブランドを高める大きな要素だと思います。こうした経歴があると、またアメリカでのトライアウトに参加した時にも、僕への評価が変わってくる。今はまず、自分が持っている能力全てを発揮できる身体の状態を作っていきたいです。
才能があったから、できたんじゃない。 大事なのは、本当にやりたいことが何かを掴めていること。 そのために正しい努力を積み重ねているかどうか。
― 山﨑さんのお話を聞いていると、ネガティブに思うようなこともポジティブに捉えていて、挫折とかないのかなと思ったんですが、いかがですか?
いやいや、悔しい想いも、挫折もいっぱいしてますよ。BCライオンズからリリースされてしまった時もすごく悔しかったし、この1〜2年は身体のコンディションを納得できる状態まで戻せないことが原因で存分にチャレンジできない状況が続いて、人生で一番おもしろくないって思うくらい落ち込んでいました。まあ、それを挫折と捉えるかどうかですよね。挫折するのって、それだけ自分に期待しているということだから。でも僕自身は、挫折は存在しないと思っています。だって、できなくて当たり前だし、できるように努力を積み重ねていくしかないから。僕のやり方って、トライアンドエラーの繰り返しなんです。大学受験だってそう。一度挑戦して跳ね返されて、失敗や課題をどうすれば克服できるかを考えて、もう1回トライする。成功するための仮説と検証を繰り返し、結果的に課題をクリアできているというのはとてもポジティブに捉えています。「やればできるんだ」って自信になる。
― たしかに山﨑さんは、仮説と検証を繰り返されていますよね。ただ悩んで頭でっかちになってしまうのではなく、行動に移している。
世の中のアスリートと呼ばれている人たちは、才能があってすごい人たちだから活躍できているんだって思われがちですけど、きっとそうじゃない。その人にとって本当にやりたいことがあって、それを実現するためにどうすればいいかを考えて、正しい努力を積み重ねてる。誰だって、成功できる力は持っていると思うんです。ただそれを実現するためには、本当に自分がやりたいことは何なのか、その本質を掴んでいることと、目標を達成するために正しいプロセスを踏むことは大事だと思います。
それと、常にポジティブでいる必要はないと思っています。僕にとっては、ネガティブからポジティブへの転換が大きなモチベーションになっているんです。
― 阪大時代を振り返って、ネガティブをポジティブに捉えられたエピソードってありますか?
例えば僕が所属していたアメフト部は関西2部リーグといって、関西1部リーグに比べると注目度が劣ってしまう環境でした。でも僕にとってはそれがモチベーションになっていて、1部昇格を目標にトレーニングを積んでいたし、そんなふうに高みを目指せる環境だったからこそ、「もっとできる」「もっと上手くなりたい」と向上心が湧いて、今の自分があるんだと思います。大阪大学のアメフト部に入っていなかったら、モチベーションを保てずに就職してサラリーマンの道を歩んでいたかもしれません。
― 冒頭でバイオメカニクス・運動物理学に興味があるとお話されていましたが、ゆくゆくは研究の道を歩まれるような可能性はあったりしますか?
大学の研究室に入るとか、企業で研究職に就くとか、具体的なイメージはまだないんですけど、研究領域に身を置きたいなという気持ちはあります。ちなみに、今勤めている会社では、阪大の健康スポーツ科学の研究室と連携があるようなんです。ゆくゆくは仕事を通して阪大との関わりと深めていきたいと思っています。
― さいごに、阪大生へのメッセージをお願いします!
僕がお話したエピソードを通して皆さんに伝えたいのは、世間体や一般常識に捉われずに自分が根本的にやりたいことって何なのかを見つめてみてほしいということ。本当にやりたいことが見つかったのであれば、正しい努力やプロセスでアプローチしていけば、夢や目標は達成できるんだということです。「どうせ自分なんて」とか「きっとうまくいかない」とか、自分の可能性を閉ざして諦める必要はない。僕もそんな想いで、日々トライアンドエラーを繰り返しています。皆さんの心の奥にある想いを、熱を、かたちにしていってください!