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〈前編〉受験生に寄り添う喜びと重責。明るさを武器に暗中模索する、阪大入試広報のカタチ。

2022.04.28
 ハンダイ情熱報告書
* ハンダイ情報告書 *

あなたが窓口で会ったあの職員、授業を受けたあの先生にもドラマあり!
阪大で働く、等身大のプロフェッショナル達をご紹介します。
急速な少子化が進行する現在、国立大学においても学生獲得への一層の努力が要求されている。大阪大学においても入試広報の重要性が改めて問われているが、2019年度より新たに入試広報に挑んでいるのが教育・学生支援部入試課入試企画係長 茂木美穂子さんである。(役職は2019年11月取材時。)
今回はそんな茂木美穂子さんにスポットライトを当て、入試広報の喜びとその重責について深くお話を伺うとともに、豊田岐聡入試担当副学長と、茂木さんが先輩として慕う魚井慶太企画部広報課広報係長のお話を交えながら、茂木氏を動かすモチベーションや入試広報にかける想いを紐解く。

高校生・受験生の人生の選択に関わるという覚悟

私は阪大の人間科学部出身で、卒業後は都銀でライフプランナーとして働いていました。その後、阪大に職員として転職してきてからは、法科大学院の教務係や研究推進課などを経験。2年間休職し、阪大法学研究科の修士課程で知財について学んだ期間もありました。そんな紆余曲折を経て、2019年4月から入試課で入試企画係長として入試広報を担当しています。
入試広報の仕事は、進学相談会のアレンジを行い、実際に全国各地の会場に赴き高校生・受験生たちの相談に答えたり、業者さんからの入試情報の提供依頼に対応することや、オープンキャンパスのとりまとめ、受験冊子の原稿作成、大学案内の作成など、広く学生募集に関すること全般です。
入試課メンバーは課長とお二人の課長補佐を含め10名強ほどいますが、それぞれがセンター試験担当、個別入試担当、特別入試担当など個別の専門に分かれています。秋~春にかけては入試課のメイン業務は入試そのものの運営が中心になり、課員全員一丸となって入試の公正実施に傾注します。入試がひと段落したら、私のメインの季節である春~秋の入試広報が本格化する、そんなサイクルになっています。この入試広報の時期には課長をはじめ、課員総出で各地で開催される進学相談会に出向いたり、入試課主催のイベントを開催したりしています。その他、私は入試広報だけでなく、入試課全体と高等教育・入試研究開発センターに関わる人事・会計・庶務などの管理業務も担当しています。(編注:2020年度より、管理業務は入試課総務係が担当)
私が実際に高校生たちと接する中で感じるのは、インターネットで多くの情報を入手することができるようになった反面、多くの高校生たちが「本当のところはどうなんだろう?」とか、「情報が多すぎて自分では選べない」という悩みを抱えているということ。だからこそ直接会って話をする意義を実感しています。実際、相談会の席ではたくさんの高校生が一般的な質問だけではなく、自分自身の場合はどうしたらいいんだろう?という個別ケースの相談を投げかけてきます。Webだけじゃなく、実際に大学の人と会って自分自身の悩みを直接相談できる。そういう機会がちゃんとあることを高校生たちに伝えたいという思いがあります。
自分の人生や進路に迷う高校生の相談に乗るということには、絶対的な解が存在しないという前提で答えなければならない難しさがあります。だからこそ入試広報の担当者は、自分の大学のことだけじゃなく、大学進学全般について本当にいろんなことを知っている必要性を実感させられます。そして、その知識を伝えることで、その子に悔いのない選択をしてほしいというのが私の願いです。もちろんその子が阪大に来てくれたら何よりも嬉しいですが、たとえ最終的な進学先が阪大じゃなかったとしても、「あの時、阪大のあの人に相談できてよかった」と思ってもらえるようになりたい。

今、私が頑張れる理由 それは、私が阪大を選んだ理由

もともと私が阪大へ転職した動機には、もっと世の中に阪大の魅力を知ってほしかったということが大きかったんです。色々と悩みの多かった高校・浪人時代を経て入学した阪大の人間科学部で得た学びや経験に本当に満足していたのに、東京で働いていた同僚は全く阪大のことを知らない。「阪大めっちゃ面白いことやってる!」と知ってもらって、私のような高校生に志望してもらいたい。その想いを持って阪大職員になり、いよいよ、人に直接その魅力を伝える役割が巡ってきました。この入試広報の担当者は、全国各地に出向いて阪大の魅力を伝える講演をしたり、直接高校生や保護者の方の相談に対応したりする阪大のセールスパーソンとも言えると思うんです。だから今が正念場というか、ここで頑張らへんでいつ頑張んねん!と思っています(笑)。
そう思ってはいるものの、進学相談会で高校生や保護者の方々とお話しするときはいまだにちょっと緊張してしまいます。進学相談会では、どうしてもその場では答えきれない、精査してから回答したい質問に出くわすことがあります。そんな時は相談してくれた子に、今すぐに十分な答えを用意できないことを正直に伝え、いつまでに回答するかを約束した上で、メールアドレスを教えてもらうようにしています。帰ってから答えを探し回答を送るのですが、その子の顔を思い浮かべると、それがついついものすごく長いメールになっちゃうんですね(笑)。それを見た周りから「こんなに必要?」と言われることもあるのですが、どうしてもいいかげんなことはしたくないという想いがあって。私の回答がその子の人生の選択を左右するかもしれないという責任と、もう一つは、その子にとって私から受ける印象が、阪大の印象になってしまうから。
今は相談してくれた子からの「ありがとうございました」「モチベーション上がりました」という言葉がすごく嬉しくて、心の支えになっています。

師匠と二人三脚で模索する自分らしい流儀

実は私には入試広報の師匠として追いかける方がいます。それは企画部広報課の魚井係長です。魚井さんは何年も前に入試課で入試広報を担当され、実質的に阪大のオープンな入試広報を最初に築き上げた方であり、その後もキャリア支援・学生支援に携わってきたプロフェッショナル。その仕事のスタンスや考え方には学ぶべき点が多く、特に私は、徹底して「高校生・受験生に寄り添う」という信念に強く共感しています。
魚井さんと私は、現在「広報企画本部広報企画ユニット」という体制によって部署を横断して一緒に業務を行っています。広報課の高校生向け広報業務と入試課の入試広報は目的と手段が重なる点が多く、実質的には入試広報を魚井さんと一緒に担当していると言えます。この体制ができたことで、広報課と入試課間の情報共有などもスムーズになってきており、何より私自身が魚井さんという心強いパートナーを得られ、非常に救われています。
魚井さんは、強い信念と独自のスタイルで高校生たちに接するのですが、そのインパクトは相談会のたびに参加者の最低1人を感動で泣かせてしまうほどです(笑)。つい先日も一緒に講演会を行ったのですが、魚井さんの壇上でのパフォーマンスは圧巻で、自身の力の無さを痛感しました。魚井さんが話すと、会場全体がフワって引き込まれていくのが分かるんです。すぐ横で見ていて本当にすごいなって、私もこんなふうに会場を惹きつけるような話ができるようになりたいって、めっちゃ憧れています。
だけど個別相談や講演会でやりたいことがはっきりあって、理想形もあるのに、そこに思うように近づけないというのは一番しんどいですね(涙)。相談会の個別相談で実際向き合う高校生たちは、自分の問題意識をはっきり持っている子もいれば、何に悩んでいるのか本人自身も曖昧な子もいます。そこを一人ひとりの気持ちに寄り添うことで、一緒になって問題を解決するお手伝いをする。そういう支え方をしたいと思っているのですが、なかなか上手くいきません。元々持って生まれてきた性格や能力の差もあるとは思いますが、魚井さんが積み上げてきた努力を知ると、自分の足りなさを思い知らされますね。それと同時に、1人では絶対気づけなかった進むべき道を示してもらっていると感じていて、力強く背中を押してもらっていることもわかっています。
例えば、魚井さんが阪大への進学者が多い大阪府と兵庫県の高校、上位10校全て実際に行ってみたという話を聞き、私は「え?でも高校生と話できるわけじゃないし、進路指導の先生方と話せるわけでもないのになんで?」って思ったんですね。でも魚井さんは「そうじゃないやろ」って。それで後日、地方の相談会に前日入りして、その地域の高校に私も行ってみたんですよ。そうしたらそこでハッと気づきました。相談会で出会った子に「あ、あなたの高校のそばに小さな駄菓子屋があるよね」という何気ない一言を伝えられるだけで相手の心に響くんだと。改めて魚井さんの見えない努力を自分も真似しようと思いました。そうして魚井さんから学んだことと自分の持ち味をミックスし、私にしかできないスタイルへ昇華させたいとあがいています(笑)。

みんなでやりたい!周りを巻き込むことの大切さ

もっともっと高校生・受験生に寄り添って、頼ってもらえるような入試広報のプロになりたいというのが今の究極の目標なのですが、そのためには広報課はじめ他の部署、各学部とももっと情報交換を行い、連携していけないかと思っています。たとえば、これまで私たちが講演会や相談会で高校生に向けて使用しているスライドや資料は、入試課でしか使用されてきませんでした。でも各学部のオープンキャンパスや部局ごとの活動に対しても共有されていた方が良いと思うし、その逆もあるかもしれない。阪大の魅力を知ってもらうという取り組みを、みんなでやりたいと思っています。これは徐々に進めていきたいなと企んではいるんですが、まだまだ先の夢ですね。
そして、さらには学内のみでなく、たとえば近隣の国公立大学や私立大学とも協力しながら学生募集活動が出来ないかと考えています。学生募集をめぐる競争は激化していて、阪大だから、旧帝大だからといって黙って座っていても多くの志願者を集めることができる時代ではありません。少なくともそう捉えて相当の危機感を抱きつつ、積極的な入試広報を仕掛けていく必要性を感じていますし、大きな責任も感じています。
現状の課題が色々とあるとはいえ、入試課内で「私がワーワー言って変えていくんだ!」みたいなことを許してもらえている環境はあります。その点では入試課のメンバーをはじめ周りの人にとても恵まれているなと感じています。特に入試課の上司の方々には、毎日のように魚井さんを頼って課を飛び出していく私の後ろ姿を「また茂木は魚井さんとこで何かやってんな」と、呆れながらも温かく見守っていただいていることには感謝しかありません。
私ひとりでは本当に何もできないということは自覚していて、だから、助けてくれる仲間がどれだけ大切かということを心から感じています。「こんな状況なんですっ(涙)」と言って結構いろんな人に泣きついて助けていただいています。だけどそんなふうに周りを巻き込んでいくことも大事かなと感じていますし、実際そうしないと自分がもたないとも思っていますね、うん。

今はまだ暗中模索 自分の弱さを克服するために自分自身を見つめ直したい

自分自身の課題として、講演会とか説明会で、結構「素」が出てしまうことを気にしています。「素」というのは、自分の自信の無さだとか迷っている気持ちが、態度や行動に出てしまっているということで、その不安はそのまま参加者の高校生たちに伝染してしまいます。そこはグッと踏ん張って演じないといけないなと思っています。
あと、本当は既にできていないといけないはずなのに今年度はできなかった、阪大と比べられることの多い大学・学部の情報を全部インプットしたい。あ、それ以前に、阪大の中でも特に理系学部の学科などの詳細な情報を自分の言葉で説明できるところまでまだ持っていけていないので、そういう自分の弱点は一刻も早く絶対克服していきたいです。知識を自分の中で咀嚼して消化することで、自分の言葉に力強さが生まれ、高校生たちにも「相談してよかった」「来てよかった」って思ってもらえるのだと思っています。
ただ、私はまだ必死すぎて、自己分析もしっかりとできていない面があります。入試広報の全体像として目指すところも何もかもがボヤっと曖昧で、漠然としたイメージだけはある状態。まずはそれを自分の言葉では表現できるようにならないといけない。今はまだ「暗中模索」というのが現状を表現するのに一番ぴったりくる言葉です。自分の何が強みで何が弱点なのか。もう一度しっかり見つめ直して、高校生・受験生に寄り添う阪大の入試広報をカタチにしてみたいと感じています。

(2019年11月取材)


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