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〈後編〉受験生に寄り添う喜びと重責。明るさを武器に暗中模索する、阪大入試広報のカタチ。

2022.05.06
 ハンダイ情熱報告書
入試広報に挑む、教育・学生支援部の茂木美穂子さん。前編に続いて後編では、茂木さんとともに入試広報に取り組む、理学研究科の豊田 岐聡 先生や、阪大入試広報のパイオニアである魚井 慶太 広報係長にお話しを伺った。
《目次》

前編
  • 高校生・受験生の人生の選択に関わるという覚悟
  • 今、私が頑張れる理由 それは、私が阪大を選んだ理由
  • 師匠と二人三脚で模索する自分らしい流儀
  • みんなでやりたい!周りを巻き込むことの大切さ
  • 今はまだ暗中模索 自分の弱さを克服するために自分自身を見つめ直したい

▼ 後編

実は…なお話教えてください! + Neighbors Interview +

副学長
入試委員会委員長、理学研究科教授
豊田 岐聡 先生
−− 豊田先生は入試担当副学長でいらっしゃいますが、入試課の業務にはどのように関わっていらっしゃるのでしょうか。
豊田先生:基本的に私は入試の統括を担っていますので、入試の実施と広報に関することはほぼ全てに関わっています。入試課のメンバーとして所属しているイメージで捉えていただいければ良いと思います。ですから入試課の全ての業務を見ているという感じですね。
−− 国立大学においても学生募集の環境が大きく変わっていく中、全学的な視点から阪大内の入試広報をどのように捉えていらっしゃいますか。
豊田先生:難しい問題ですね。私たちが大学を受験した時代は、阪大は入試広報なんてしなくて良かったわけです。ほっといても受験生は集まってくるし、来るべき人は来るという大学でした。私も入試担当になるまではそんな感覚でしたね。しかし実際に今こうやって入試担当となり、入試説明会などへ行くと、「阪大といえどももっとアピールせなあかん、阪大の良さをしっかり伝えなあかん」ということを強く感じさせられます。阪大が望む学生たちはただ待っていても来てくれない。そういう時代に変わったのだと実感しています。
豊田先生:今の大学受験は、入れるか入れないかだけの偏差値の世界と言えます。だけどその中で、個別説明会にわざわざ足を運び、自ら何かを求めて来る子がいて、その子たちは「自分のやりたいことをできる大学を選びたい」という強い思いを共通して持っています。決して偏差値だけで皆が大学を選んでいる訳じゃないんですね。阪大もそういう強い思いを持った学生に来てほしい。ところが阪大はアピールが下手で、その子たちの求めていることに応えられるにも関わらず、それをしっかりと伝えられていない。それはお互いにとってとても不幸なことです。

私も阪大出身で長く阪大にいますが、以前に比べ“阪大らしさ”が薄れてきていると感じています。かつては教員の中にも「研究者として東大でも京大でもなく、阪大ならではの価値をどう生み出すか」という意識が強くあリました。そこから生み出される“阪大らしさ”は、当時の高校生たちにもぼんやりと伝わっていた。ところが今、実際に受験生たちと直接話していても、阪大がどう捉えられているのか全く見えてこない。ほとんどがあくまでも東大、京大に次ぐ偏差値を持った大学というイメージしかない。それではダメなんですね。入試担当としては、京大じゃなくて阪大行きたいという子を採りたい。「京大も行けるけど、阪大で研究がしたいんだ!」という学生を採るために、偏差値を超える入試広報の必要性を感じています。
−− 現在、先生と同じ想いを胸に茂木さんも入試広報業務を試行錯誤されていらっしゃいます。先生の目には茂木さんの挑戦はどう写っていますか?
豊田先生:まず、茂木さんは元気です。とにかく元気で明るい。阪大出身ということもあり「阪大を良くしよう!」という、前向きで柔軟な強さがあります。だからでしょうか、彼女は今、型を破りたいと考えているように感じます。阪大らしさにはある意味固すぎるところがあります。例えば、高校生向けのパンフレットでもカチコチなんですね。少し真面目すぎる(笑)。そこに高校生目線を加えたりして、少しでも柔らかくしようと試行錯誤しているのが伺えます。そういう小さな積み重ねが新しい阪大らしさを生み出していくのではないでしょうか。だから茂木さんには、従来からある阪大らしさを守りつつ、新しい阪大らしさを育ててほしい。

しかし何かを変えるときには突破しないといけない壁にもぶつかるでしょう。そこは、私たちが支えてあげなくてはいけないと考えています。私たち教員にできることは限られています。研究や論文を書くことは得意かもしれませんが、その他のことでは職員の方たちにもっと遠慮せず前に出て、どんどん活躍してもらいたい。我々教員と職員がそうやってお互いフォローし合いながらチームとして機能することが、阪大が直面する課題を解決することにつながるのだと私は考えています。しかし現状はそのチームづくりが十分とは言えないのかもしれません。入試広報においても絶対的に体制が弱いと言わざるを得ない状況です。ここは組織として解決していかなければならない課題として認識しています。
−− そのような現状を受け、先生から茂木さんへのアドバイスをされるとしたら?
豊田先生:正直なところ、入試広報の成果を何で測るのかと問われても適切な指標が存在しません。単に入試倍率を上げることではありませんし、優秀な学生を獲得できたかどうかなんて5年、10年経ってみないとわからないわけです。そもそも阪大にとっての優秀な学生の定義も明らかにされていません。そんな目標も立てづらく評価もされにくいのが阪大入試広報のおかれる現状です。これは今すぐには答えの出ない難しい問題かもしれません。だからこそ、茂木さんひとりがもがいている状態ではダメだと思います。茂木さんの想いに賛同する仲間を増やさなければいけない。入試広報の現場には受験生に対する責任の重さもありますが、受験生一人ひとりと直接対峙することでしか感じ得ない喜びや感動がそこにはあります。茂木さんを支えているそういった喜びや感動を周囲ともっと共有できるといいですね。そういう点で、私なんかをもっと上手に巻き込んでもらい、周りに「それいいね!」と言わせるアイデアをどんどん出してほしい。その実績が増えていけば、茂木さんの想いは周りにも浸透し、仲間もどんどん増えるでしょう。私もそれをうまくサポートしてあげたいと考えています。
企画部広報課
広報企画本部広報企画ユニット
魚井 慶太 広報係長
−− 魚井さんは阪大の入試広報のパイオニアだとお聞きしています。
魚井さん:僕は2011年から4年間、入試広報業務を担当していました。その後4年間学生センターでキャリア支援や課外活動支援を担当し、現在は企画部広報課と広報企画本部広報企画ユニットに所属しています。広報業務の一環として高校生・受験生向け広報があるのですが、そこで入試課と連携しましょうという体制が生まれました。
−− 茂木さんのお話から、魚井さんに対する信頼の高さを感じました。「受験生に寄り添う」という信念は、魚井さんから受け継いだと。
魚井さん:彼女はそう言ってくれているようですね。元々僕の入試広報のやり方には、相談に来てくれた受験生、講演を聞きに来てくれた受験生一人ひとりに、「ああ、この阪大のおっさんの話聞けて良かった。」とか「あの阪大のおっさんにあんなに親身になってもらえた。」という、心にちょっとしたギフトを持って帰ってもらうという狙いがあります。僕はそれが「阪大ファンを増やす」ということにつながると信じているので。そんなところに茂木さんは共感してくれているようです。とはいえ茂木さんには自分独自の道を歩んで欲しいということを伝えています。僕には僕の持ち味があるように、茂木さんには茂木さんの持ち味があるんです。
魚井さん:先日、高校生を対象とした茂木さんの大阪大学の説明をじっくりと聞く機会があったんですが、その説明の後、多くの高校生がもっと話を聞きたいということで押し寄せ、長い長い質問者の列ができたんですよ。茂木さんの説明内容に不足があったからそうなったのではなく、「もっとこの人の話を聞いてみたい」と高校生に思わせる力が茂木さんの語りにはあったから、そのようになったのだと思うんですよ。そばで聞いていた僕も、彼女の柔らかい語り口に惹きつけられましたから(笑)。彼女が僕のやり方に追随する必要はまったくないとすら思っています。現に茂木さんには茂木さんのやり方や魅力があるのだから、自信を持ってそれを伸ばしていってほしいと思っています。
−− 魚井さんの大学説明は一味違うとお聞きしましたが?
魚井さん:そうかもしれませんね(笑)。僕のやり方はかなり変わっていると思います。説明会と言っても単に大阪大学の説明をするわけじゃないんですよ。説明だけなら誰でもできる。だけど、誰もができることを僕がやる必要はないというのはいつも思っていて、僕にしかできない方法で、“説明”以上の何かを高校生・受験生に伝えたいと常に考えてきました。そのためには自らの足で稼いだ情報量と、あと兄貴肌な自分の性格も役に立っているかもしれません(笑)。茂木さんもそのアプローチを自分なりに引き継ぎたいと考えてくれているようです。
−− それはとても素晴らしいことのように感じます。
魚井さん:それ自身はいいことだと思います。簡単ではないと思いますが、僕はそのやり方が正しいと思ってやってきましたし、一定の成果もあったと感じています。実は、この入試広報をやっていてすごく嬉しいことがあるんですよ。僕は毎年阪大の入学式会場で、拡声器を持って入場案内をする仕事をさせてもらっていたんです。なぜかと言うと、「熊本でお会いしました!」「福井でお会いしたこと覚えていますか?」みたいな感じで、過去に説明会や相談会に参加してくれた学生さんたちと、そこでめちゃめちゃ会えるんですよ。多い年には数十人にもそこで「おお、よう来たな!!」「困ったことがあったらいつでも言ってこいや。」って言葉を交わす。
魚井さん:それは本当に嬉しい瞬間です。高校生・受験生に関わり、その子たちの人生の選択に寄り添う。そんな責任重大なことは引き受けられへんと感じる方もいるかもしれません。その気持ちも理解できます。もちろん僕もその重責に苦しんできた経験があります。自分の言葉がその子の人生を左右しかねないことの重さには常に向き合ってきましたし、今でもその怖さは常に胸にあります。茂木さんはその重責を理解した上で、自分も受験生たちに寄り添っていきたいと覚悟を決めている。だから僕は先輩として自分の持っているものを伝え、全力で彼女を応援したいと思っています。
−− 魚井さんは入試広報に携わった当初から自分なりの方法論をお持ちだったのでしょうか?
魚井さん:そんなことはありません。実は、あまりの職責の重さに慄き、最初ひと月くらいはうつうつとしていました。「この重い仕事を1人でやるんか…」と押し潰されそうになって。当時は今より更に入試広報という概念が阪大内にありませんでした。だから誰も正解を知らない状況です。だけど、正解も分からない、寄る辺とする場所もないからこそ、僕自身の信念にしたがって入試広報に取り組むことができたとも言えます。荒野の中を進むみたいな心境でしたが(笑)。
−− 魚井さんの時代があり、茂木さんが引き継ぐ阪大の入試広報はどう進んでいくのでしょうか?
魚井さん:僕がここまで切り開いてきたというラインがあるとすれば、茂木さんにはそのラインからスタートして欲しいと思っています。何よりも僕が苦しんだのは相談相手がいなかったこと。同じことで彼女に苦しんで欲しくはない。そのために僕がこのポジションにいるのかもしれないと思っていますし、助けになりたいと考えています。実際今は、部署が異なるにも関わらず、お互い顔を合わせない日の方が珍しいという関係です。そのことが茂木さんにとって少しでも助けになっていれば嬉しいですね。入試広報は誠実に向き合うほど責任の重い仕事です。だけどそこには大きな喜びもあります。阪大らしい実直な入試広報を行うためにはもっと多くの人に関わってもらう必要がある。それに、茂木さんはチームで取り組む入試広報のスタイルを模索しています。それはかつて僕にはできなかったことだし、そこに茂木さんならではのやり方が見つけられるとしたら、それはとても素晴らしいことだと思っています。

プライベートの意外な一面

猫好きが高じて 愛玩動物飼養管理士資格取得
実は私、すっごい猫好きで、副業が解禁されたらキャットシッターをやりたいなと思っているぐらい好きなんです。そのために愛玩動物飼養管理士1級という資格も既に取ったりしているんです(笑)。その資格があると猫カフェとかもできるんですよ!あと、今も家で黒猫と茶白の元保護猫を2匹飼っているのですが、野良猫の問題についても気になっていて、そういうボランティアにも興味があります。実際、入試課に異動するまでは定時で帰ることが多かったので、夕方以降に保護猫に関するボランティアをしようと考えていたんです。でも、今は残業が多くてできなくなってしまって。だけど11月に、本部棟のそばで生まれて数週間の子猫がミーミーと1匹で鳴いているのを見つけて保護し、3か月間育てて、里親に繋げました。辛いことがあっても猫ちゃんに癒されている。フヌヌって浄化される感じがするんです。(笑)

〈自分自身の背中を押す言葉〉

銀行時代の先輩から言われた言葉なのですが、「明るければ強し」という言葉をずっと大切にしています。当時はほとんど話をしたこともなかった3〜4年上の先輩だったのですが、私が退職してから10年以上も経ってからですよ、久しぶりにLINEでやりとりする機会があって、そこで「茂木の明るさは魅力だ。『明るければ強し』って僕は部下にも言ってるんだ。茂木は明るい。だからあなたは強いはず。だから頑張れ!」って言ってもらったんです。それがなんかこう背中押された気がして、忘れられない言葉として胸の中に残っていました。「もうちょっと早く言ってよ!」って返しましたけど(笑)。
その先輩とは今でも時々LINEをするんですけど、実は入試課に異動してからも同じ言葉を言っていただいて、「あなたにはきっとそれは天職だから、頑張りなさい」みたいな。それでもう、その言葉を信じよう!と思って。「明るければ強し」。それ以来ずっと大切にしている言葉です。

= 取材を終えて =

阪大入試広報。今回の取材から明らかになったのは、そこに潜む奥深さと責任の重さであった。入試広報に誠実に向き合うほど、高校生一人ひとりの人生の選択に関わる重責と、大学から期待される漠然とした成果との間で悩みもがくことになる。この正解の見えない職責を背負い、持ち前の明るさを武器に暗中模索する茂木さんの姿から、そのたおやかな強さを垣間見ることができた。
大学では、引き継いだ手順書や年間スケジュールの滞りない遂行自体が目的化する、ということがしばしば起こってしまう。しかし茂木さんの言葉の背景に見えたのは、自身の仕事に使命感を見出し自分ごととして情熱を注ぐ、バイタリティ溢れる姿であった。茂木さんが引き継いだのは決してマニュアルではなく、「魂」であった。
彼女が目指す「高校生・受験生に寄り添う入試広報」。今回の記事が、その意義に共感する仲間を一人でも多く増やすことにつながれば幸いである。

(2019年11月取材)


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